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日本の経済成長を世界最悪レベルと見通した、世界銀行とOECDの予測

6月24日に発表された貿易統計(速報)では、日本の2009年5月の輸出総額は、4月に比べて若干減少した。日本の輸出総額は、09年1月を底として2月、3月、4月と3ヶ月連続で増加していたが、足踏みに転じたわけだ。

 もっとも、例年5月は他の月に比べて輸出額が減少する傾向があるので、これは格別驚くような事態ではない。内閣府が試算する輸出数量指数では、輸出は前月に比べ5.9%増とされている。しかし、季節調整については、別の数字もある。貿易統計の季節調整計数では、4月に比べてマイナス0.3%となっている。

 このように、5月の計数については、まだ評価が確定できない部分もある。しかし、落ち込んだ輸出が急速に回復するわけではないことは明らかだ。

 現在の日本の輸出額は、08年夏頃までに比べると、5~6割程度の水準である。今後もほぼこの程度の水準が続くと考えてよいだろう。08年頃までの水準に戻ることは、少なくとも近い将来に関する限り絶望的と考えざるをえない。

 「今後の経済が回復するにしてもL字型」と言われるが、【図表1】に示したパタンが、それをよく示している。08年夏頃までの高水準の経済活動が、09年秋に一挙に崩壊した。急降下は09年の初めに終わったが、底からは横這い状態が続くだけで、元の水準には戻れない。うまくいったとしても、落ち込み前の7割程度の水準が続くだけである。

【図表1】日本の輸出総額の推移

資料:財務省「貿易統計」

 

 中国、アメリカに対する輸出額の推移を見ると、【図表2】のとおりである。

【図表2】日本から中国、アメリカへの輸出額の推移
資料:財務省「貿易統計」

 中国に対する輸出はこれまで数ヶ月間増加していたが、足踏みしている。その結果、5月の計数は、08年11月頃の計数に戻っただけで、08年6、7月の計数に比べると6割強にしかなっていない。08年5月に比べても、約7割である。

 中国の需要拡大策の効果が現れていると言われるが、日本の輸出のデータからは、それは確認できない。中国に対する日本の輸出が増えているのは、中国の対先進国輸出が増えていることによると思われる。

 アメリカに対する輸出も足踏みしている。09年5月の計数は、08年5月に比べると、55%程度である。ピークであった07年秋に比べると、43%程度にまで落ち込んでいる。

過剰設備と過剰人員をどうするか

 鉱工業生産指数は、09年3月から上昇し、4月には大きく伸びた(【図表3】参照)。その結果、08年2月の水準に比べた生産水準は、3月には64%まで落ち込んでいたが、4月には68%にまで回復した。

【図表3】鉱工業生産指数の推移
資料:経済産業省

 しかし、これは、それまでの時点で急激な在庫調整を行なったことの反動だ。在庫が減ったので生産を増やした。需要が伸びたためではない。

 

 

 需要は、2010年末になっても、危機前の8割程度の水準にしか回復しないだろう。だから、現在程度の売上で赤字にならないように減量することが必要だ。それは、設備、人員の両面について言える。これらの本格的な調整は、これからの課題だ。

 まず人員が過剰である。製造業の雇用は全雇用のほぼ2割であるから、これが仮に2割削減されれば、それだけで経済全体の失業率は4%ポイント上昇する。人員整理が必要なのは製造業だけではないから、失業率は10%に近づく可能性もある。

 経済対策で行なわれた雇用調整助成金は、休業中の従業員の休業手当を政府が肩代わりする制度である。対象者は、企業の側から見れば不要になった人員だ。つまり、これは、本来なら失業者とカウントすべき人たちなのである。だから、雇用調整助成金は失業の顕在化を抑えているだけであって、雇用を積極的に増やす効果は、もともとない。

 さらに、こうした施策をいつまで続けられるかも、疑問である。それが停止または縮小されれば、失業は一気に増大するだろう。失業を免れたとしても、賃金はカットされ、ボーナスはなくなる可能性が大きい。所得が増えなければ、消費も増えない。

 生産設備も過剰である。前回述べたように、製造業においては、平均して2~3割の過剰設備があると考えられる。過剰設備がある以上、設備投資は増えない。むしろ課題は、設備廃棄をいかに進めるかだ。

 こうして、現在の日本において本来取られるべき経済政策は、労働力の再配置と、過剰設備についての設備廃棄だ。これらは緊急に必要とされる施策であり、それなくして日本経済の再生はありえない。

 新聞報道によれば、麻生太郎首相は都議選の応援演説で、「休日は高速道路、どこまで行っても1000円」「妊産婦の検診は無料にします。14回無料!」「出産一時金を4万円値上げして42万円!」と経済対策を宣伝しているそうである。妊婦の無料検診や高速道路1000円制がなぜ経済対策なのか、まったく理解に苦しむところだ。いずれにせよ、日本経済が抱えている深刻な諸問題が、これらではまったく解決できないことは間違いない。「高速道路乗り放題」のような無意味な政策は一刻も早く取りやめにし、その財源を用いて本来必要とされる政策を少しでも進めるべきだ。

そして、日本経済の根本的な経済構造の見直しと再設計を行なうべきである。その基本は、新興国の需要に依存するのでなく、供給力に期待することだ。つまり、新興国の安価な労働力を活用することである。

アメリカ経済は回復するが、日本は回復しない

 世界銀行が6月22日にOECDが6月24日にそれぞれ世界経済見通しを発表した。

【図表4】実質経済成長率の見通し(単位:%)

 この2つの見通しはきわめて似通っている(【図表4】参照)。09年の日本の実質成長率は、どちらの見通しでもマイナス6.8%となっている。これは、日本政府の見通しマイナス3.3%とは大きく隔る。世銀見通しの09年の日本の数字は、表に掲げられたなかでは、ロシアに次ぐ最悪の数字だ。OECDの見通しでは、日本は加盟30カ国中、アイルランド、アイスランド、メキシコに次いでワースト4位である。

 国際機関も各国政府には配慮している。だから、これらの見通しは、楽観的なバイアスをもっていると見るべきだ。実際、どちらの見通しも2010年には日本の成長率はプラスに転じるとしている。これは、経済対策の効果を考慮した結果であろう。国際機関としては、各国の経済政策に効果がないとは言えないのだ。しかし、分析者が日本の経済対策の本当の内容を知っているのかどうか、疑問に思わざるをえない。

 日本の将来がはっきり見えない半面で、アメリカ経済は回復してゆくと予想されている。世銀の予測を用いて、アメリカの実質GDPを計算すると、2011年には07年より2.3%高い水準になる。ところが、日本の実質GDPは、2011年になっても07年より5%ほど低い水準にしか回復しないのである。

 今年の初め頃には、「アメリカ型資本主義が駄目になった」という人が多かった。そして、「いまこそ日本の出番だ」という意見も見られた。しかし、実際には、その逆の事態になる可能性のほうが大きい。


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