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Xperiaの半分しか売れなかったGALAXY――ツートップの差はなぜ開いたのか?

Business Media 誠2013年08月05日12時02分

神尾寿の時事日想:

【画像:ツートップの販売状況、ほか】
 ドコモの「ツートップ戦略」(参考記事)の結果が見えてきた。
 ツートップとはドコモが今夏モデルから敷いた販売戦略のことだ。これまで各メーカーを平等に扱ってきた護送船団方式を改め、商戦期ごとに特定のメーカーおよびモデルを「一推し」として選定。そこに広告費や販売支援金を集中させるというものだ。この夏商戦では、ソニーモバイルコミュニケーションズ製の「Xperia A SO-04E」とサムスン電子製の「GALAXY S4 SC-04E」がツートップとして、ドコモの主力販売モデルになった。

 そして夏商戦も終盤にさしかかった7月26日、ドコモが2014年3月期第1四半期(4月~6月)の決算会見において、ツートップ戦略の現状について実績を公開した(参考記事)。ツートップの一角であるXperia Aの販売台数は約110万台、一方、GALAXY S4は約55万台という結果だった。どちらもAndroidスマートフォンの単一機種として見れば非常に売れているが、ソニーのXperiaがAppleのiPhoneに迫る勢いで売れているのに対して、サムスンのGalaxy S4はXperia Aの売れ行きは半分以下と、“特別扱い”をされている割には振るわない。販売現場に近いドコモ関係者からは、「サムスンをツートップに入れたのは失敗だった」という声も少なからず聞こえてくる。

 サムスンのGalaxy Sシリーズといえば、グローバルで見れば「iPhoneのライバル」と評される強力なモデルのはず。それが日本ではなぜ売れなかったのか。そして、ドコモのツートップ戦略は、今後どうなるのか。それについて考えてみたい。

●Xperia AとGalaxy S4の価格差が生まれた理由

 Xperia AとGalaxy S4で、なぜ倍以上の差が開いたのだろうか。要因は複数あるが、なかでも大きいのが価格戦略の違いだ。

 ドコモは今夏のツートップ戦略においてXperia AとGalaxy S4に特別割引を設定し、“ツートップ以外”のモデルよりも割安な価格で販売したが、発売直後の価格を見ると両者で同じ価格が設定されたわけではない。Xperia Aの方がGalaxy S4よりも1万円近く安く設定されていた。

 なぜ、この価格差が生まれたのか。

 表面的に見れば、それは「性能と位置づけの違い」から生じたものである。ソニーのXperia Aは"普及モデル"であり、性能的に見れば今期トップクラスのものではない。最先端の部品で最高性能を求める代わりに、一般ユーザーのニーズが高いカメラと防水の機能にこだわり、万人受けをするデザインになっている。一方、サムスンのGalaxy S4は同社のフラッグシップモデルであり、CPU性能を筆頭に"最先端かつ最高性能を重視したハイエンドモデル"になっている。

 そして、この位置づけの違いが、両社の価格戦略に明確に現れた。スマートフォンでは、メーカーがキャリアに製品を納入し、それをキャリアが各販売代理店に卸売りをするという販売モデルになっている。この際の"キャリアに対する納入価格"で両者の仕組みが異なったのだ。

 複数の関係者によると、ソニーのXperia Aは当初の計画台数である約100万強のうち、「初回納入台数以降の追加調達分は、納入価格が段階的に下がる価格設定になっていた」(関係者)という。Xperia Aが売れて追加調達がかかるほど、ドコモ側がソニーに支払う端末代は安くなるため、今回のツートップ戦略のように「あらかじめたくさん売ることが前提」であれば、追加調達分の値下がりを加味して当社から店頭販売価格をドラスティックに下げられる。Xperia Aは最先端・高性能なデバイスではなく、歩留まりのいい部品で手堅くまとめたため、量産効果が出やすいのでソニー側にも損はない。

 一方、サムスンのGalaxy S4は、グローバル市場で数千万台を販売することを前提にし、最先端かつ最高性能のデバイスを搭載していた。各国のキャリアへの納入価格も、“グローバル市場での大量生産・大量販売”を前提にした価格で設定されている。そのためドコモのツートップ戦略に際しても、ソニーのように「追加調達分から納入価格を段階的に引き下げる価格設定になっていなかった」(関係者)という。もともとハイエンドモデルで単価が高いことに加えて、調達台数が増えても納入価格が下がらない契約であったため、ドコモとしてもXperia Aのような戦略的な販売価格が設定できなかった。結果として、販売開始当初に価格差が生まれてしまったのだ。

●市場の変化が、Galaxy S4ではなくXperia Aを選んだ

 むろん、両者の価格差があったとしても、その差は1万円ほどである。普及モデルとハイエンドモデルの違いもあるため、ドコモ内部には「(ツートップの中で)需要が棲み分けする。Galaxy S4は特にMNP競争で、iPhoneキラーとして機能するはず」という見方もあった。

 しかしフタを開けてみると、Xperia Aが予想以上の成果を上げた半面、Galaxy S4はドコモにとって期待外れの結果となってしまった。

 このような状況に至った背景には、市場環境の変化がある。国内のスマートフォン市場は黎明期から普及初期が終わり、今の主役は「なんとなくスマートフォンを選ぶ」受動的な乗り換え需要に移り変わっている。ここでは最先端・高性能への関心は薄く、日常利用に過不足のない性能・機能があれば、あとは「できるだけ安くて、安心して使えるブランドを選ぶ」という傾向になっているのだ。

 この市場環境の変化を考えると、Galaxy S4は今の時代に合っていなかった、と言わざるを得ないだろう。同機は確かに最先端かつ高性能なスマートフォンではあるが、CPU性能の高さなどはハイエンドユーザー層に訴求できても、一般ユーザー層にはあまり響かない。また日本の一般ユーザー層が求める防水機能は搭載されておらず、日本におけるサムスンのブランドイメージは、Appleやソニーには遠く及ばない。それでいて当初の販売価格は同じツートップのXperia Aよりも高かったのだから、売れなかったのも仕方ないと言える。

 そして、もうひとつ。サムスンは今期のツートップ戦略において、大きな失敗を犯している。それは販売価格の違いでXperia Aに負けたことに焦り、自ら販売支援金を負担する形で、Galaxy S4にキャッシュバックをつけてしまったことだ。むろん、このようなメーカー負担による販促活動はシェアを落とさないために過去にも行われていたが、今回はあまりにもその時期が早すぎた。販売開始から1カ月程度しかたっていない新製品で、しかもツートップでもともと安くなっていたはずのところに、さらに2万円ものキャッシュバックを行ったらブランドイメージはガタ落ちである。今後「サムスンのスマートフォンは、ハイエンドモデルでも待っていればすぐに安くなる、キャッシュバックがつく」と思われてしまう。

 こうして見ると、サムスンは今後の日本市場において、課題を抱えていることが分かる。同社の商品戦略と日本市場のニーズは乖離しはじめており、それを埋め合わせるだけの製品の魅力や強力なブランドが構築できていない。とりわけ今後、一般ユーザー層が主戦場となる中において、サムスンブランドの好感度や信頼度が、Appleやソニーよりも劣っていることは大きな問題だ。日本市場にあわせてブランド戦略やマーケティング戦略をしっかりと行わなければ、サムスンのGalaxyシリーズはハイエンド市場でしか戦えないものになってしまうだろう。

●ドコモの次期ツートップはどうなる?

 この原稿を書いているさなかに、NECがNECカシオモバイルコミュニケーションズが担う携帯電話事業を見直すという発表があった(参考記事)。NECは今後、フィーチャーフォンとタブレット端末の事業は継続するものの、スマートフォン事業からは正式に撤退するという。

 そのような中で、今年冬商戦のドコモの販売戦略はどうなるのだろうか。先に筆者が行ったドコモの加藤薫社長へのインタビューでは、冬商戦も引き続きドコモが一推しのスマートフォンを選定するとする一方で、「それ(選定する機種数)が2機種なのか、3機種なのかは分からない」(加藤氏)とされた。

 その上で、今夏のツートップ戦略の結果も踏まえて筆者が予想すると、おそらく次のドコモの一推しからはサムスンは外れるだろう。時期的に話題性のある新機種が出ない可能性が高く、今夏のツートップでの結果でも分かるとおり、今の日本市場にあった商品戦略とブランドをサムスンが構築できていないからだ。他方で、ソニーは次も残留し、ドコモの一推しの中に留まる可能性が高い。Xperia Aで見せたソニーの商品戦略・価格戦略は見事であり、国内でのXperiaのブランドイメージはiPhoneに次ぐレベルまで成長している。それをみすみすドコモが外すとは考えにくい。

 そして、サムスンに代わってドコモの一推しに昇格するのは、おそらくシャープだろう。

 同社のAQUOS PHONE ZETA SH-06Eは今夏のツートップからは外れたが、低消費電力の液晶パネル技術「IGZO」と、イヤフォン端子や充電端子に蓋をつけずに防水する「キャップレス防水」など、日本の一般ユーザーに訴求しやすい機能的な特長を持っている。実際、今夏のツートップ選定においても「販売現場では、Galaxy S4ではなくAQUOS PHONE ZETAを推す声は多かった」(ドコモ関係者)。実際の夏商戦の結果でも、絶対的な販売数量では特別割引のあるXperia AやGalaxy S4には及ばなかったが、他キャリアからのMNP獲得比率ではAQUOS PHONE ZETAはツートップの両モデルよりも高かったという。それらの結果と、今冬には懸案とされたIGZO液晶の生産効率や歩留まりも改善しているであろうことを鑑みると、ソニーと並んでシャープが"ドコモの一推し"の枠にはいる可能性は極めて高そうだ。

 ドコモは名実ともに国内最大のキャリアであり、スマートフォンの総販売数の規模もトップだ。そのドコモがあえて"一推し"を選んだ今夏のツートップ戦略は影響範囲がとても大きく、その是非について様々な議論があるのは当然だ。特にツートップに選ばれなかったメーカーにとっては死活問題であり、一部に怨嗟の声が生じるのもしかたないことだろう。また今夏のツートップにおいて、市場ニーズにあったメーカー/製品がきちんと選定されていたかというと、市場ニーズにあわないGalaxy S4を選んでしまったなど、選定基準やそのプロセスにいまだ課題がある面は否めない。

 しかし筆者は、今回のツートップのように「ドコモが一推しを選ぶこと」自体は、たとえ副作用が大きくても間違ってはいなかったと考えている。いや、より正しくいえば、「ドコモが一般ユーザー向けに、一定品質以上のスマートフォンを選別すること」は実はもっと早い段階から必要だったのだ。スマートフォンが一部のリテラシーの高いユーザーのものではなく、広くあまねく多くの人々のものになる中で、品質が低くて使いにくかったり、ニーズにあっていない製品を選別することは必要だ。フィーチャーフォン時代、ドコモの端末採用基準の厳しさは「ドコモ品質」と呼ばれ、メーカー担当者を悩ませる一方で、多くの一般ユーザーにとっては安心感につながっていた。またドコモが求める要求水準が厳しいことが、競争を促した一面もある。ユーザー視点で選ぶのではあれば、ドコモが一推しモデルを選定し続けることが、一般ユーザーにとっての安心感・信頼感となっていくだろう。その中で商品開発力や競争力がないメーカーや製品の淘汰が促されてしまうとしても、それはやむを得ないことである。

[神尾寿,Business Media 誠]


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