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安かろう「良かろう」 行列のできる格安店 ギョーザ1皿99円、ラーメン250円

2016/7/31 6:30日本経済新聞 電子版

 低価格を売りにした飲食店がにぎわいを見せている。アベノミクス効果が陰りを見せ、消費者心理は悪化。再びデフレ志向に回帰する動きを日経MJは「安値ミクス」と命名し、2016年上期ヒット商品番付の東の横綱に据えた。一方で繁盛する「安値ミクス店」をのぞくと、消費者はどうやら安さだけを求めていなさそう。人気店の理由は「メリハリ」と「割り切り」にあった。

■広告費使わず、廃棄ロスも徹底削減

 「店の看板に書かれている99円という文字に引かれて入店した」。岐阜と愛知に7店舗を展開する「下町の空」名北店(名古屋市北区)に初めて来店した愛知県豊山町に住む主婦の山本かすみさん(43)は驚く。月間の来客人数が1万2000人にも上る同店。売りは6個1皿99円(税抜き)という激安ギョーザだ。

 名古屋市西区の同社のセントラルキッチンでは7店舗分のギョーザ、1日6万~7万個を製造。生産ラインを3人で回しコストを削減する。

 とはいえ、「安くても安心・安全でないと食べたくない」(名古屋市中川区に住む主婦)という声も多く、食材はニラ以外全て国産。運営するエコ・シンク(岐阜県大垣市)の吉田敦営業本部長は「原価率は88%ほど。ギョーザだけでは利益が出ない」と漏らす。一方で「店の広告は一切出さない。価格自体の宣伝効果を見込み、99円に設定している」と話す。

 セントラルキッチンではギョーザ以外も製造する。チャーハンはご飯と具材を混ぜていためるだけの状態まで仕上げ、真空で瞬間冷凍。店舗では使う分だけ解凍し、食材ロスを減らせる。

◇           ◇

100円パンが並ぶ京都伊三郎製ぱん長門石店(福岡県久留米市)
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100円パンが並ぶ京都伊三郎製ぱん長門石店(福岡県久留米市)
 JR久留米駅から車で5分ほどの距離にあるベーカリー「京都伊三郎製ぱん」長門石店(福岡県久留米市)は昼時になると客でごった返す。人気の秘密は約130種類の焼きたてパンがほぼ全品100円(税抜き)という安さだ。近畿に3店舗、九州に18店舗を展開。1店舗当たり平均で平日は600人強、休日には1000人程度来店する。月1店舗のペースで出店を加速させている。

 週1回は通っているという近所に住む自営業の女性(52)が「100円でこのクオリティーはすごい」と話すように、人気の理由は味にもある。

■100円焼きたてパン、生地を冷蔵配送

 同店のすぐ近くにあるセントラルキッチンではパン生地やトッピングの材料を生産し、九州内の18店舗に冷蔵配送する。

 冷凍パン生地を使うベーカリーも増えているなか、運営会社の滝下信夫社長は「コストやオペレーション面では冷凍パン生地を使った方が効率的だが風味や食感は劣る」と力説する。

 味にこだわり原価率は45%ほどと高い分、オペレーションは簡略化。店舗では届いたパン生地などを成型し、焼く作業のみ担う。会計ではレジに並ぶ前に客自身がパンを袋詰めする。福岡県うきは市に住む自営業の岩下博子さん(59)は「安くなるなら喜んで自分で袋に詰める」と納得顔だ。

関東で13店舗を展開する「鎌倉ベーカリー」も約80種類の焼きたてパンを100円(税抜き)で提供する。1店舗当たり、1日に2500~3000個を売り上げる。セントラルキッチンでのパン生地の製造や賃料の安い郊外への出店でコストを削減。さらにこだわるのは他の店舗跡地を活用する「居抜き出店」。内装は極力変えず、陳列棚やディスプレーも既製品をうまく組み合わせて出店コストを抑えている。

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■本格ラーメン、本家より200円安

 豚骨ラーメンの「聖地」福岡。その地で際立った安さを見せるのが、福岡県内に4店舗を展開する「18ラーメン」だ。

18ラーメン大土居店では本格的な豚骨ラーメンを1杯250円で提供している(福岡県春日市)
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18ラーメン大土居店では本格的な豚骨ラーメンを1杯250円で提供している(福岡県春日市)
 大土居店(福岡県春日市)に週2回は通うという福岡県志免町に住む自営業、野口孝哉さん(62)のお目当ては1杯250円の豚骨ラーメン。「本家と変わらない味で250円は安い」。18ラーメンの本家は福岡市内に本店を置く「一九ラーメン」。本家では450円で提供するが、18ラーメンではほぼ同様のものを250円で提供している。

 スープは本家で作ったものを鍋ごと各店に配送。各店でスープを仕込まないため、若いアルバイトに店の運営を任せられる。本家は業者から仕入れた麺を使用するが、18ラーメンでは本家の麺と同じ小麦粉を使って自家製麺するほか、麺の量を本家に比べ5%減らし、コストを削減する。

 立地にも安さの秘訣がある。入居しているのは全てパチンコ店の中や駐車場。パチンコ店の「客に手軽に食事ができる場を提供したい」という思いから家賃が低く抑えられている。

 週4回は大土居店に通うという、福岡県朝倉市に住む会社員の男性(50)は「安さもそうだが、何よりラーメンの味が自分の好みに合っているから通っている」と話す。週末は1店舗あたり1日800杯強、平日でも600杯ほど提供される人気の裏には、安さだけでなく、常連客の舌を納得させる「味」がある。

 東京都足立区にある東武伊勢崎線の竹ノ塚駅から徒歩10分ほど。「カレーライス ゼイコミ200円」との派手なのぼりがはためく。原価率研究所(新潟市)が1月にオープンしたカレー専門店だ。

 客の6~7割はリピーター、9割を持ち帰り客が占める。平日は300~400食、土日は700食あまりが売れていく。ご飯と鶏胸肉入りのカレーで、食材はすべて国産にこだわる。それでも低価格で提供できる背景には、徹底したコスト削減の工夫がある。

 ルーは大手食品メーカーと共同開発。溶けやすいフレーク状のルーを採用し、「店員1人でも10分ほどで簡単に大鍋いっぱいのカレーを作ることができる」(同社)。洗う手間を省くため、食器やスプーンは使い捨て。水やおしぼりは提供せず、店内にある自動販売機でミネラルウオーター(100円)などを買ってもらう。床や壁はコンクリート打ちっ放しで、テーブルやパイプ椅子も折りたたみ式の簡素なものを使用。出店費用は50万円ほどで済んだという。

 店内で食べていた足立区在住の男性会社員(51)は「使い捨ての容器も水がないのも全然気にならない。200円で普通においしいカレーが食べられるなら、それでいいんじゃない」と満足げに立ち去った。

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■100円台おつまみ 仕入れは築地

 消費者のデフレ志向は酒席にも及ぶ。リーマン・ショック後の2009年に流行した1000円でベロベロになるまで酔える「せんべろ」居酒屋にも、安さだけでなく質も求める客が集まる。

 東急目黒線の武蔵小山駅から歩いてすぐ。都内に16店舗を展開する「晩杯屋」の武蔵小山本店(東京・品川)を夕方に訪れると既に多くの客が。「平日はほぼ毎日来ている」という東京都目黒区に住む会社員の芹田稔さん(68)。魅力は「できたての料理や新鮮な刺し身が安く食べられるところ」だと話す。


 店内に掲示しているメニューを見ると100円台中心と手ごろ。運営するアクティブソース(東京・品川)の金子源社長は「客単価は1300円ほど。これでお酒3杯と食事3品は頼める」とその安さに胸を張る。

100円台の安いフードメニューが充実している晩杯屋武蔵小山本店(東京都品川区)
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100円台の安いフードメニューが充実している晩杯屋武蔵小山本店(東京都品川区)
 食材は築地市場(東京・中央)から仕入れ、「仲卸業者との信頼関係で仕入れコストを安く抑えている」(金子社長)。日によって安く仕入れられる質の高い食材は異なるため、日々メニューが変わるのも特徴だ。

 さらに金子社長は「商品の質と値段にはこだわっているが、サービスには重きを置いていない」と笑う。標準的な15坪、40席強の店舗であれば4人のスタッフで回す。注文は客がメモに記入し、店員に渡すシステムだ。

 週4回は来店するという東京都品川区在住の男性(68)は「時々注文が通っていないこともあるが許容範囲内。安いから許せてしまう」と笑う。

 東京都豊島区に住む松崎太郎さん(40)が「チェーン店感が全くなく居心地がいい」と話すのはかぶら屋(東京・豊島)が都内を中心に46店舗を展開する「大衆酒場かぶら屋」。池袋4号店(東京・豊島)を訪れると、午後6時すぎには28席の店内がほぼ満席だ。

 定番は全品1本80円の焼きとんや、80円からのおでんなど店内調理の低価格メニュー。一方で、人気の大根などのメニューは数量限定としている。「数量限定にすれば、生産者側と連携し、生産計画を立てやすい」(かぶら屋の内山九十九社長)。「品切れやむなし」の姿勢が仕入れコストの安定につながっている。

 標準的な店舗は13坪ほどの店内に35席前後を置き、4人ほどの店員で回す。テーブル会計をしなかったり、厨房を省スペース化したりと店員の無駄な移動を減らして運営の効率化を図る一方、店員は店内の隅々に気を配れる。

 夕食代わりによく通っているという豊島区在住の団体職員、鷲頭聡介さん(49)は「いくら安くておいしくても、店の居心地が良くなければ通わない」と話す。

 内山社長は「店づくりで一番重要視するのは1人でも入りやすい静かな店の雰囲気をつくること」と話す。予約は取らず、常連客が毎日気軽に来られる環境をつくるほか、「大声で騒ぐ客は退店してもらうこともある」(内山社長)という。

 人気の「安値ミクス」店に共通するのは安さだけでない客のニーズを取り込めていること。味はもちろん、食の安全性や居心地など求めるものは多様だ。「ちょい高消費」を経験してきた消費者は選別眼も厳しい。アクティブソースの金子社長は「安かろう悪かろうで稼げる時代は終わった」と断言する。

 店はコスト削減のためにサービスなどにメリハリをつけ、客も自分が求める「質」が保てれば割り切って受け入れる。デフレ志向を強める消費者をつかむうえで、安値ミクス店の工夫は一つのヒントとなる。

(高尾泰朗、田島亜紀子)

[日経MJ2016年7月25日付]
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