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ドコモは震災から何を学んだのか――ドコモ東北支社 荒木裕二支社長に聞く (1/2) [NTTdocomo]

NTTドコモ東北支社は、東日本大震災の発生直後から、グループ内で復旧・復興へ向けたさまざまな活動の最前線を担ってきた。あの震災からドコモは何を学び、どんな対策を採ってきたのか。荒木裕二支社長に聞いた。

2011年3月11日に発生した東日本大震災から2年。通信キャリアの復旧作業はとうに終わり、通信インフラの観点では日常性を取り戻したように見える。しかし、その一方で、次なる震災の不安が拭われたわけではなく、日本の通信キャリア各社にとって「防災・減災への取り組み」は終わることのないミッションになっている。

 ドコモはあの震災から何を学んだのか。そして、その教訓が「今のインフラ」にどう生かされているのか。

 東日本大震災当時、ドコモ東北支社長として陣頭指揮を執ったNTTドコモ 執行役員 東北支社長の荒木裕二氏に話を聞いた。

支社長室の窓の向こうに、迫り来る海が見えた――(聞き手 : 神尾寿) 荒木さんは東日本大震災の発生当時、この東北支社にいらっしゃったのですか。


NTTドコモ 執行役員 東北支社長の荒木裕二氏。東日本大震災発生時、支社長室の窓から海の方向を見ると、街に押し寄せる津波が見えたという荒木裕二氏(以下荒木氏) ええ。ちょうど一人で支社長室にいました。ここ(ドコモ東北支社ビル)は制震ビルなので5分くらい揺れていたと思います。その瞬間は身を守りながら、「宮城沖地震がついにきたか」と思いましたね。

 その後、私は津波を見ることになったのですが、支社長室の窓から外を見て“こんなところに湖か池があったのか”と訝しんで地図を取りだしたのを覚えています。津波の水が、どんどん市内に入り込んでいた。あの時は、このビルまで津波が来るのではないかと感じました。

―― その時の心理的ショックは大きそうですね。

荒木氏 いや、当時はそれどころではなかったのですよ。(支社長としての)役割が決まっていましたからね。この目で被災の瞬間を見た後は、すぐに階下の災害対策室に行きました。その時点で覚悟を決めていましたよ。これは先が見えない、いつ終わるか分からない事態になったぞ、と。

―― そこからドコモの復興への取り組みが始まったわけですね。

荒木氏 ええ。時間軸で考えると、2つの段階がありました。

 最初の1年は、インフラ復旧のフェーズ。被災して使えなくなったインフラを、とにかく復旧しなければならない。ここはドコモ各地域の応援を受けながら、地の利に明るいドコモ東北支社が主導する形で進めていきました。緊急対策的なインフラ復旧は(2011年)4月下旬までに実施し、さらに同年9月ぐらいまでかけて、ほぼ復旧作業を終えることができました。

 さらに東北全体の復興への取り組みという意味では次の1年で、こちらは本社主導で進めてきています。

東日本大震災の教訓はどのように生かされたのか―― 東日本大震災後のインフラ復旧では、地震対策の新たな施策もかなり盛り込まれていますね。

荒木氏 そうですね。昨年2月末をめどに新たな仕組みも導入しました。例えば、全国104カ所、東北エリアだけで12カ所に設けられた大ゾーン方式基地局などが代表的な例ですね。

―― 東日本大震災の教訓はかなり生かされている、と?

荒木氏 教訓は生かされてきていますが、完璧だとは思いません。例えば、東日本大震災直後の初動の部分で、もっとできたことがあるのではないか。震災後の72時間は被災者の生命にとってもっとも重要な時間なわけですが、ここでもっと機動的に通信インフラが利用できるようになっていたら、もっと救えた命があったかもしれない。こういった反省をもとに衛星携帯電話の配備を充実させるなど、まだまだやらなければならないことがあります。

―― 初動という観点ですと、東日本大震災の発生当時、動いていたはずの基地局が非常用バッテリーの電池切れで止まってしまい、通信エリアがこぼれ落ちるように狭くなっていってしまったのが、とてもやるせなかった。東日本大震災では、この電力喪失が基幹通信網の損害以上に大きな問題になりました。

荒木氏 震災時に停止した基地局は約4900局あったのですが、その数は翌日の夕方ぐらいまでかけて増えていったのです。実は停止した基地局の8〜9割近くが電源喪失後の電池切れでした。この電池切れによる大規模な基地局停止は、東日本大震災で特に顕著に現れた問題ですね。

―― その教訓は生かされているのでしょうか。


2013年3月から試験導入が始まる基地局用燃料電池装置。225リットルのメタノールを改質し、燃料電池として用いる。3Kw基地局の場合は約60時間の稼働ができる荒木氏 基地局の無停電化やバッテリーの24時間化は積極的に行っていまして、全国で約1900局、東北で約240局が対応しています。ただ、最終的には発電機を動かす軽油の確保や輸送の課題があり、これはNTTグループ全体で取り組んでいるところです。震災後、移動基地局車だけでなく電源車も増やしていますが、これらの運用などもしっかり考えていかなければなりません。

 また、新たな取り組みとしては、この3月から基地局向けの燃料電池の導入を始めます。これは従来の半分のサイズ、14分の1の重量で約60時間の電力をバックアップできるというものです。(燃料電池で一般的な水素ではなく)メタノール改質型の燃料電池であるため、燃料の保管・輸送も容易です。

―― 燃料電池は非常に期待のバックアップ電源ですが、今後、急速に配備が進むのでしょうか。

荒木氏 まだ試験段階ですし、コスト的な課題もあるので当初は試験的な導入になります。ただ、今後は試験データを見ながら、全国に広げていきたいと考えています。


東日本大震災の経験・教訓を得て、ドコモは全社的に移動基地局車や電源車の配備数を増加させている。その数は国内キャリアの中でトップだ。東日本大震災では基地局の電源喪失が大きな問題になったため、移動電源車の重要性があらためて注目された。ドコモでは燃料となる軽油の備蓄・供給体制も含めて、3.11の教訓をもとに備えを行っているという
2012年11月に実施されたNTTドコモ総合防災訓練では、自衛隊との連携も含めて、東日本大震災の経験を生かした訓練が実施された。同社のインフラ復旧・非常時対応の練度はとても高い。参加する社員もいつも真剣そのものだ。東日本大震災の時には、津波による道路の寸断で「復旧用の中継装置がクルマで運べない」ことが大きな問題になった。その教訓を受けて、ドコモでは“人が背負って運べるサイズ”のマイクロ基地局伝送路装置を新たに開発。全国的に配備を進めている

誰も経験していないスマートフォン時代の大震災―― 逆に東日本大震災の時と異なる新たな問題や課題はありますか。

荒木氏 スマートフォンですね。東日本大震災当時はまだスマートフォンの普及初期で、特に東北地方ではフィーチャーフォンが圧倒的な主流でした。しかし今では端末販売の半分以上がスマートフォンになっています。実はこの“スマートフォン時代の大震災”については、誰も経験していないのです。

―― 一般的にスマートフォンはフィーチャーフォンよりも大量のトラフィックを発生させます。また、LINEやTwitter、Facebookなどキャリアの管轄外のサービス利用が増える中で、大規模災害時のトラフィック抑制がどこまでできるかが課題になりそうですね。

荒木氏 ええ。SNSなど他社のサービスも含めて、災害時の(スマートフォンの)トラフィックをどう制御するのか。ここは通信キャリア同士だけでなく、LINEなど他のサービス提供事業者も含めて話し合っていかなければなりません。

―― ドコモが率先して、事業者間の連絡協議会を設立するなどの考えはないのでしょうか。

荒木氏 民間会社同士だけだと、難しい部分もあるかもしれませんね。そこはドコモが主導権を握るとかではなく、(防災に)関連する省庁や大学の有識者なども交えて、災害時のトラフィック制御について話し合っていくのがよいでしょう。

 また、災害発生時で考えますと、(フィーチャーフォンより大きな)スマートフォンの消費電力をどうするか、なども考えなければなりません。スマートフォンの方が端末のバッテリー切れ問題が大きいわけですね。スマートフォン時代における新たな災害対策をどうするかは、まさに今年(2013年)から真剣に議論していきます。

―― ドコモは全社的に東北地域の復興に注力しており、その中でもドコモ東北支社は“地域密着”で復興支援を行っています。ドコモ東北として今後どのような役割をこの地域で担っていきたいのか。その点についてお聞かせください。

荒木氏 ドコモ東北が担う役割は何かといいますと、「(3.11を)風化させない」ことだと思っています。東日本大震災の経験を、次に大震災が起こるかもしれない別の地域に伝えていく。インフラ事業者として、我々が得た経験や教訓を広げていくことが大切です。それをしっかりと続けていきたいです。


NTTドコモ東北支社には、震災の記憶を風化させないための「震災記録資料室」が設けられており、左の写真のような、震災で断線した中継用光ファイバーなどを展示している。右は震災後のインフラ復旧で用いられた中継用の高速光無線システム。震災当時は、マイクロ波エントランスをはじめ、様々な非常用設備がフル動員されたという。ドコモの「備え」が生かされて、迅速なインフラ復旧につながった
左は津波で倒壊した基地局設備。福島第一原発付近の基地局復旧時に使われた放射能防護服
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