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安さだけじゃない、SIMフリーが紡ぐ未来の携帯競争 ジャーナリスト 石川 温

 携帯電話サービスの常識が大きく変わり始めた。アップルやグーグルからSIMフリーのスマートフォン(スマホ)が登場し、格安SIMを提供する仮想移動体通信事業者(MVNO)への注目度が一気に上昇。ブームに乗るMVNOの中からは大手の携帯電話会社(キャリア)にはない新サービスを開発し、価格競争を抜け出す動きが出てきた。たとえば国内におけるMVNOの先駆者である日本通信は、すでに端末メーカーなどと組み一足早く新しいサービスを意欲的に開発中だ。同社の三田聖二社長に話を聞き、携帯戦争の未来を探った。

アップルは自社の販売サイトでSIMロックフリーのiPhone5sの国内販売を始めた
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アップルは自社の販売サイトでSIMロックフリーのiPhone5sの国内販売を始めた
 アップルは11月22日、何の前触れもなく自社のオンラインストアでSIMロックのかかっていないiPhoneを売り始めた。グーグルも11月1日からSIMフリーの「Nexus5」を同社のサイト上で販売。ユーザーが手軽にSIMフリー端末を調達できる環境がようやく整ったことで色めき立っているのがSIMカードを販売するMVNOだ。

■現在のメニューはほぼ横並び

 MVNOサービスにはすでに多数の企業が参入済みで激烈な競争を繰り広げている。通信速度や転送できるデータ量に制限を設ける工夫で月額500~2000円という低価格を特徴としているところが多いが、各社とも同じNTTドコモのネットワークを使っており調達コストはほぼ変わらない。そのため、料金やメニューの内容に大差なくほぼ横並びの状態だ。

 ユーザーの選択肢が早くも飽和しつつある中で「次の一手は何か」という疑問を、日本でMVNO市場を切り開いてきた日本通信の三田社長にぶつけてみた。

 日本通信では、11月23日に最大1秒間に200キロビット(kbps)のデータ通信と音声通話サービスをセットにして月額1560円で提供する「スマホ電話SIMフリーデータ」を発売。通常の音声電話として使え、さらに200kbpsという低速だがデータ通信が使い放題というプランだ。200kbpsはメールやツイッターのような画像や動画を多用しないサービスならば利用に耐えうる通信速度だ。

 三田社長は「我々は競争はしない」と明言。データ通信料金プランを無料で音声通話料金とセットにし、これ以上の値下げができないほどの低価格で他を圧倒し「競争」を終わらせようというわけだ。

■会社の電話を携帯電話で

 しかし、日本通信がMVNOの生き残りの秘策として考えているのはこれではない。現在開発を進めている「FMCフォン」(仮称)がそれだ。

日本通信の三田聖二社長
日本通信の三田聖二社長
 FMCフォンの見た目は通常のスマートフォンだが、企業内にある「IP-PBX」という構内交換機(PBX)と連携し、会社にかかってきた電話を外出先でも着信できるようにする。会社の固定電話にかかってくるとデスク上にある電話とFMCフォンの両方を呼び出す設定にでき、会社にいるか外出するかに関係なく1つの番号だけで電話が受けられる。

 FMCフォンから発信する際も「080」や「090」といった携帯電話の番号ではなく「03」など通常の固定電話の電話番号として発信可能だ。通話料金は固定網並みの低価格で利用できる。


 FMCフォンとIP-PBXとの間はドコモのネットワークを使い、そこに相互接続した日本通信の設備を経由して接続する。インターネットのような公衆ネットワークは使わないので、高いセキュリティーを確保できる。「無線専用線なので、セキュリティーを気にする企業にも安心だ」(三田社長)

SIMフリーの「Nexus5」を持つグーグルのクリス・ヤーガ氏
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SIMフリーの「Nexus5」を持つグーグルのクリス・ヤーガ氏
 FMCフォンでは無線LANやブルートゥースといった通信手段を使えなくしており、日本通信の設備経由以外でのインターネット接続はできない。このため、企業側が設定するサイトしかつながらないようにもできる。

 FMCフォンは、すでにスマホの端末メーカーやPBXメーカーと開発を進めている段階だ。

■家庭の電話番号をそのまま利用

 日本通信では、FMCフォンを企業以外の一般ユーザー向けに提供することも考えている。

 日本通信がインターネット上にクラウド型PBXを用意し、そこを経由することで携帯電話の電話番号として新しい「03」番号を付与できる。さらに、自宅に設置する小さな専用端末を開発しており、それを使えばオフィスの場合と同じように自宅の電話番号をスマホでも使えるようになる。

 FMCといえば、数年前によく聞いた言葉だ。固定と移動体の通信を融合していくというコンセプトだが、日本で具体的に製品化、サービス化されたものはなかなか思い浮かばない。NTTグループはNTT法もあって、固定と携帯を融合させたサービスを提供するのは難しい。KDDIも3M戦略などを掲げてはいるが、せいぜい固定電話と携帯電話の料金が一緒に払え、さらにスマホの料金を割引している程度だ。

 これまでは、キャリアと端末メーカーの関係が強く、MVNOがどんなにネットワークを用意しても端末の調達が難しかった。だが、グーグルやアップルがSIMロックフリー端末を売り始めたことで、大きな風穴が開いた。さらに、ドコモがこの夏に「ツートップ戦略」を掲げたことで、日本メーカーなどはこれまでのキャリアとの関係を改め、自社での販売やMVNOに向けて端末を売ることにも注力し始めた。

 かつてはSIMカードとNECカシオのスマホを組み合わせ販売していたNECビッグローブは、来年2月からシャープの「アクオスフォン」を売るようにもなる。すでにネットワークと端末を様々に組み合わせて、これまでにはないネットワークサービスが実現できる環境が整いつつあるのだ。

 この流れは来年以降さらに加速するだろう。まさに、2013年はMVNOにとって大転換を迎えた年といえる。
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