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LINE MUSICやApple Musicにない強みとは――ドコモの定額音楽配信サービス「dヒッツ」の戦略 [NTTdocomo]

ITmedia Mobile / 2015年8月1日 12時37分

 「LINE MUSIC」「AWA Music」など、日本では立て続けに定額の音楽配信サービスが登場し、話題を集めている。これらはストリーミング形式で音楽を配信するサービスで、従来型のものとの大きな違いは、定額料金を払えば、音楽が聴き放題になる点にある。購入ではなく、楽曲を聞く権利のサブスクリプション(定期購読)と考えれば理解しやすいだろう。海外では「Spotify」が人気を集めているが、ここに、膨大なデバイスを販売するAppleが、OSと密接に連携を取った形で「Apple Music」を開始させた格好だ。Apple Musicは日本でも利用可能となり、LINE MUSICやAWA Musicと三つ巴の戦いを繰り広げている。

 続々とサービスが始まり、注目を集めている定額の音楽配信サービスだが、一方で、日本市場を見渡すと、これらのサービスに先行しているプレーヤーもいる。代表的なのが、ドコモの提供する「dヒッツ」だ。dヒッツは、もともと「MUSICストア(現・dミュージック)」内のコンテンツの1つとして始まっており、当初は「MUSICストア セレクション」と呼ばれていた。このブランドをdヒッツに改めて、機能にも磨きをかけていった結果として、現在では会員数が300万を突破。ほかの定額音楽配信サービスより、一足早く“成果”を出している。

 このように数字は伴っているものの、課題もある。マインドシェアの低さは、その1つだ。LINE MUSICやAWA Music、Apple Musicが登場した際も、dヒッツまで含めて比較するメディアは少なく、ネットを見渡す限りでは、300万会員突破というニュースも意外感を持って受け止められている。記録には残っているが、記憶には残っていないサービスともいえるだろう。では、dヒッツが定額の音楽配信市場で存在感を発揮していくには、どうすればいいのか。dヒッツが成功している理由とともに、今後の展開を追った。

●充実したコンテンツと必要十分な機能を見極め、価格の安さを打ち出す

 dヒッツは、ほかの定額制音楽配信サービスと大きく異なる点がある。他社はストックされた楽曲の中から、ユーザーが好きなものを自由に選び、プレイリストを作成できるのに対し、dヒッツは「ラジオ型」と呼ばれるものに近い作りになっている。ラジオ型とは、サービス提供側が用意したプログラムに沿って、音楽を聴く形のスタイル。ユーザー側の楽曲選択がある程度制限されている代わりに、「(レコード会社との)許諾がラジオ型になるため、楽曲のラインアップが充実させられる」(ドコモ コンシューマビジネス推進部 部長 前田義晃氏)のが特徴だ。

 これは、レコード会社が、プロモーションの一種と見なしているため。一番のメリットとして挙げられるのが、国内メジャーアーティストの楽曲が、ズラリとそろっていることだ。ドコモと共同でdヒッツを運営するレコチョクの執行役員 板橋徹氏によると、同社がアラカルト型で提供する上位300アーティストのカバー率は、85%になるという。ほかの定額音楽配信サービスが55%程度の中で、これは頭1つ抜けた数字といえるだろう。レコチョクで配信する上位300アーティストということは、主に邦楽でトレンドにも合ったものだ。

 プロモーション扱いになることで、価格も引き下げられる。dヒッツには2つのコースがあり、安い方が300円、より高機能な方が500円となっている。1000円前後するほかのサービスと比べれば、価格の安さが際立っている。機能限定で価格も安い。つまり、dヒッツはライト層向けのサービスということだ。

 「奇をてらったサービスではなく、いわゆるライト層といわれる方々がとっつきやすいものにした。ハードルの低いサービスを提供することで、市場が広がり、活性化することを狙って始めている。個別の楽曲を買うと、300円、400円してしまう。もう少し低価格で、手軽に音楽を楽しみたいニーズに応えていきたいと思った」(前田氏)

 安さにこだわったのは、フィーチャーフォン時代から音楽配信サービスに取り組んできた経験があったからだ。前田氏は、かつてドコモが定額音楽配信サービスの「Napster」を開始したときのことを振り返りながら、「過去にはNapsterのようなサービスも提供してきたが、1000円を超えてしまうと、それほど大きく契約数が跳ねない。お客様の選択肢になりづらいということを、経験値から感じている」と語っている。

●「オンデマンド型」と「ラジオ型」の中間に位置する「ハイブリッド型」

 とはいえ、いくら楽曲が充実していて価格が安くても、好きな楽曲を好きなときに聴けないのでは、ここまで大きなサービスには成長しなかっただろう。こうしたユーザーのニーズに対し、dヒッツはラジオ型とオンデマンド型の中間である「ハイブリッド型」という形を採用した。ハイブリット型をうたう最大の理由は、月に10曲までの楽曲を「myヒッツ登録」できるところにある。myヒッツ登録とは、「オンデマンドで好きな楽曲を、好きなときに聴ける機能」(前田氏)のこと。月に10曲まで登録でき、年間だと120曲のプレイリストができあがる。登録枠は半年間持ちこせるため、例えば5カ月間は登録せず、6カ月目に60曲を登録するといったこともできる。

 このmyヒッツ登録は、「(iモードにあった)デジタルコンテンツのポイントのような感覚で導入した」(前田氏)という。フィーチャーフォン時代には、月額料金に対してポイントが付与され、それを使って好きなゲームや音楽などのコンテンツを購入できる「公式サイト」が一般的だった。myヒッツ登録も、それに近い機能として位置付けられている。「楽曲購入だと(平均で)月に2、3曲といったレベルだったが、そこと比べると十分な数」を用意している。

 もともと、myヒッツへの登録は月3曲までだったが、2014年12月に10曲に増加させたことが功を奏し、一時は伸び悩んでいた契約者数も、再び増加に転じる。無料期間を31日に伸ばしたことも、dヒッツの成長には一役買っているようだ。

 もちろん、ドコモの販路を利用できるのも、契約者数がここまで伸びた大きな要因の1つだ。前田氏によると、店頭での獲得率は約9割。「インターネット経由で入っていただくことも強化していきたいが、それ以上にリアルな接点が多い」という。ドコモショップや併売店では、端末購入時にdヒッツの加入を勧めている。ショップによっては、サービスに1つ加入するごとに数百円程度の割引をつける施策も行っている。こうした販促活動も、今のユーザー数を支える背景にある。

 ドコモは各種サービスをマルチキャリア化しているが、dヒッツは「他キャリアの割合は実際一番低い」(前田氏)。一方で、「ドコモユーザーだけだとやはり限界はあり、ほかも取り込んでいきたい」(同)といい、他キャリアユーザーの取り込みは、今後の課題といえる。

●利用率の向上やソーシャルでの口コミをどれだけ増やせるか

 順風満帆に見えるdヒッツだが、冒頭で言及したようにマインドシェアがあまり高くないのは気になるところだ。失礼を承知で言い換えれば「注目度が低い」と評することもできる。ネット上での反響が低いだけかと思いきや、「それ以外のところで盛り上がっているという話も、残念ながらあまり聞かない」(前田氏)。こうした点については、ドコモ自身も危惧しているようだ。前田氏も「ご理解いただける活動をしていかないとマズイという思いはある」と語っている。

 ここで1つの疑問がわく。店頭で契約したユーザーが、そのまま放置して使っていないのではないか。この仮説に対し、前田氏は次のように反論する。

 「利用率はほかのプレーヤーが出していないこともあり、公表はしていない。また、ある時期、あまりユーザーがアクティブにならない時期があったことも事実だ。一方で、それではいけないということで、無料期間を作り、店頭で勧誘する場合も、その場で『こんなふうに使える』ということをやっている。結果として、初月に関しては、ほぼご体験いただけている。もちろんとりあえず入って使っていない人もいるが、無料期間中に全体の半分弱が抜けている」

 つまり、端末購入の補助金目当てで契約したユーザーは、もともとあまり使う気がないため、無料期間終了と同時に解約をしてしまっている。残ったユーザーは、もともと利用意向があったため、アクティブ率は決して低くないということだ。

 ただ、先に挙げたように他キャリア率が極端に低いため、SNSなどで「サービスのよさ」が拡散されにくいという側面はあるだろう。また、そのSNSにしても、対応が遅れていた。LINE MUSICはコミュニケーションツールとして不動のポジションを占めるLINEと連携しているし、そのほかのサービスもTwitterやFacebookとは当たり前のようにつながっている。dヒッツには、この視点が欠けていた点は否めない。

 もっとも、SNS連携は、間もなく大幅に強化される。先に開催された新サービス・新商品の発表会で明かされていたように、ドコモはFacebookと提携。dヒッツとFacebookの連携も、ここに含まれている。9月上旬には、dヒッツのプレーヤー上にFacebookボタンが設置され、投稿された楽曲は、ほかのユーザーがFacebook上で直接試聴できるようになる。その投稿からdヒッツに移動したり、楽曲を購入したりといった仕組みも導入される。

 また、「コンテンツの充実度を見せる意味でこうなっているが、今のdヒッツは、ユーザーインタフェース(UI)がちょっとガチャガチャしている。タイムリーな見直しを図っていき、喫緊で変えていく」(前田氏)といい、見た目や使い勝手も、より洗練させていく。ライト層向けながらも、継続して利用する上でUIは重要な要素だ。話題性という意味でも、UIの見直しは必要になってくるだろう。

 もともと、ライトなユーザーばかりが集まっているため、話題になりづらいという側面もある。マインドシェアを高めるためには、もう少しコアな音楽のラインアップをそろえ、発信力の高いユーザーを呼び込む必要もありそうだ。ここには、新たに開始するインディーズを発掘する取り組みである「EGGS」が効いてくるかもしれない。ドコモはタワーレコードも子会社化しているが、ここを上手く活用することも、コアな層にまで響くサービスに成長するポイントといえるだろう。

 レコチョクの板橋氏が「AWA、LINE MUSIC、Apple Musicなどの競合とどう戦うかという質問になるが、まずは市場に根付かせることが重要。我々だけでなく、ほかのプレーヤーがいろいろなサービスを立ち上げ、新しい聴き方として根付けばスケール感が出てくる。今年(2015年)、来年(2016年)にかけ、もう一度市場を再活性化させるために頑張っていきたい」と述べているように、日本でもこの市場はまだ始まったばかりだ。ドコモの前田氏も「音楽分野に関しては、これからも力を入れていきたいと」と語っている。市場が大きくなりつつある中で、dヒッツが送り出す次の一手にも注目しておきたい。
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